「Today and tomorrow and yesterday too The flowers are dying like all things do」
今日、明日そして昨日も変わらずに 花は枯れていく、あらゆるものも同じように。
昨年の今頃 Bob Dylan の新作
が発売された。
時代をより戻すような
世紀末を彷彿させる落ち着いた音調に
語り掛けるような声。
外出を遮られ家で徒に過ごすしかない日々において
そこから響くサウンドに耳を傾けると
なにか精神に落ち着きをもたらしてくれる。
発表当時の時世を振り返ると
パンデミック騒ぎの中
丁度、次期アメリカ大統領選 真っ只中にあり
ケネディ大統領の暗殺を歌った
「Murder Most Foul」には
17分にも及ぶ過去の叙事詩を扱いながら
現代を批評するという
ディランの得意とするスタイルはここにきて
更に鋭さと円熟さを増し
近年、フランク・シナトラやトラッドの
カバーが続いていた中で当作は
ノーベル文学賞受賞後の
ディランの現代の吟遊詩人としてアンサーアルバムと言えるだろう。
授賞式の講演の最後を
「私の中で歌いたまえ、おお詩の女神よ、私を通して物語りを語りたまえ」と
ホメロス一節で締めたディランであるが
ギリシア神話の文芸の女神カリオペに捧げられた
7.「Mother of Muses」
にも Martin Luther King が登場してくるあたりは
自由と民主主義の行方に
対する訴えを聴いて取ることができる。
「Everything’s flowin’ all at the same time」
「何もかもすべてが同時に流れている」
その中でも
ここで記したいのは1曲目の
「I Contain Multitudes」だ。
カプレット(couplet )と呼ばれる二行連句の
丁寧な韻文で練られた詩には
自己はあらゆる多面性を含んでおり
善でもあり悪でもあり
風景画を描くし裸体も描く
俗でも誠でもすらもありうる
この表題曲は Walt Whitman(ホイットマン)の詩から取られたとされているが、
エド・ヨンの著作にも同タイトルがあることから
知の前線で語られている
ウイルスや細菌に対する自己の向き合い方や
人類の関わり方についても含んであると考えられる。
Anne frank , Indiana Jones, The Rolling Stones
の様にギリギリをせめて
最後までゆき
Willam Break の経験の歌のように詠う。
まるで
独白的でありながらも、
変わらずに普遍性を
帯びた歌詞が続き
そんな清濁呑み込んだ末に
語られる最後のバースに息を呑む。
「I’ll keep the path open – the path in my mind
I’ll see to it that there’s no love left behind」
「わたしは道を開けて通れるようにしておこう、わたしの心の中の道を。
どんな愛も置き去りにしないように気をつけよう」